月: 2024年5月

MINDHACK:ヒューゴのわくわく宇宙通信_03

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ、操縦士のパトリック・ヒューゴだよ。

 

宇宙でも夢を見ることがあるんだ。ダスティンやサリー、ライアンにニールと一緒の夢だ。みんなで暖炉を囲んで、ロッキングチェアに腰掛けて。ケーキの取り分を決めるために、みんなでトランプを遊んでいる。ババ抜きで上がった順番に分け前がもらえるってわけ。でも、どうしてか俺のもとにばかりジョーカーが回ってくる。順繰りでカードを引いているのに、ジョーカーがどんどん増えていくんだ。みんな上がってしまって、1人、また1人と姿を消していく。最後に残されたのは俺1人。手元に残った4枚のジョーカー。永久に上がれないババ抜き。

 

宇宙でも夢を見ることがあるんだ。アメリカに残してきた妻のサラと、双子のミアとデイジーの夢だ。海のそば、白い屋根の2階建ての家で。3人とも俺の帰りを待ちながら暮らしている。それを俺は上から見てるんだ。ドールハウスを見下ろすような俯瞰視点でさ。本当は手を伸ばして、手のひらで3人を包み込みたかった。頬ずりしてやりたかったんだ。でもそれだけはできない。どうしても。この手を伸ばすことだけはしちゃいけないんだ。視界に自分の腕が入ってきた途端、取り返しのつかないことに気付いてしまう気がして。

 

宇宙でも夢を見ることがあるんだ。最近は決まって同じ夢。何度も繰り返し見る、エルメス号で独りぼっちの夢だ。船の酸素タンクが破損してしまって、修理のために船外活動服をまとって外に出る。破損個所はすぐに見つかって、修繕も間もなく終わる。でもそのとき、背中が何だかむずむずっとするんだ。ヘルメットのせいで後ろは向けないから、代わりに袖につけられた鏡で後方を確認する。何ということだろう、船外活動服の背中が破れているじゃないか! そして、その裂け目が……裂け目が……裂け目が。

 

次回のメッセージもお楽しみに。チャンネルはそのまま!

MINDHACK:ヒューゴのわくわく宇宙通信_02

やあ、みんな。パトリック・ヒューゴだよ。元気にしてたかな? 今日も皆に、宇宙のことや俺自身の話をしていこうと思うよ。さて、宇宙飛行士っていうと、必ず聞かれる質問がある。「どうして宇宙飛行士になろうと思ったんですか?」ってね。みんなそれぞれ、インタビュー向けの回答を用意してるけど、もちろん俺にだって理由がある。俺の場合は、子どものころの思い出が強く影響してるんだ。

俺みたいなシティボーイは、西海岸と東海岸、どっちの生まれだと思う? 正解はどっちでもない。いわゆるグレートプレーンズ……君も地理の授業で習ったことがあるだろ。肥沃な大地を埋めつくすトウモロコシ畑、バイソンがあくびをする広大な草原地帯。まあ言ってみればド田舎なんだ。だから少年たちの遊び相手ってのも、大自然が一番の友達ってことになる。そして特に俺が心惹かれたのは、頭上に広がる広大な星空だったんだ。

俺の親父が人生で最も賢い判断を下したのは、お袋と結婚したときと、パトリック少年にミード社の望遠鏡を買い与えたときだ。夜な夜な屋根裏部屋に上がって、オレオやリッツなんかをお供に、無限の星々を眺めるのが至福の時間だった。ラジオからは「ラブ・ミー・ドゥ」が流れていたけど、まだまだ子どもだった俺にとって、最も愛すべき恋人は宇宙そのものだったんだ。

それからもう一つ俺に深い影響を与えた存在がある。それが、綺羅星のようなSF小説たちだ。俺の一番のお気に入りは『星を継ぐもの』。刊行されたとき俺はハイティーンだったけど、もう頭をぶん殴られたような衝撃だった。ガニメデを歩くシーンの寂寥感ときたら、涙が出るような臨場感だったよ。そして同時に、宇宙への飽くなき探求心を持つ人類という生き物に誇りを感じた。そのときが、俺がまさしく宇宙飛行士を目指そうと決めた瞬間だったんだ。

ああ、でもトラウマティックという意味では、『2001年宇宙の旅』も深く心に刻まれてるな。近所に映画館なんかなかったから、キューブリックの映画版じゃなくてクラークの小説版を読んだんだけど、子どもにとっては哲学的なテーマが難しくて……それより怖かったのが、HAL9000だ。「将来、本当に機械が反乱を起こしたらどうしよう!」って、不安で眠れなくなるくらいだったよ。もっとも、実際にそういう未来が来るのは2001年よりずっと先になりそうだけどね。コンピューターが人間のように考えて喋るだなんて、現代の技術じゃあり得ないんだから。

今回の話はここまでだ。俺自身のことについて喋りすぎちゃったかな? 次回は皆が気になる、宇宙食事情について伝えるよ。チャンネルはそのまま!

MINDHACK:ヒューゴのわくわく宇宙通信_01

やあ、みんな!俺はヒューゴ、パトリック・ヒューゴだ。このビデオは、宇宙での生活の様子をみんなにお届けするために録画してるよ。この映像を通じて、少しでも君たちの真上の世界に興味を持ってくれたら幸いだ。

俺の宇宙船での役割は、操縦士。パイロットだ。この宇宙船、エルメス号の舵取りをする大切な仕事さ。このエルメス号にはある程度 自動操縦の機能も備わってるんだが、それでもランデブードッキングとか、重要な局面では人の手がいる。操縦士に向いてるのは、細かいことに神経質で、それでいて楽観的なやつだね。色々気を遣うことは多いが、行先をライトで照らせなきゃこの海は渡れないんだから!

操縦士賛歌を伝えたけれど、宇宙船の操縦は操縦士だけが取り仕切ってるわけじゃない。むしろ主導権を握ってるのは船長、ミッションコマンダーだ。俺たちの船長といえば、ダスティン・グラッドウィン! 宇宙船では船長の命令は絶対だ。お手と言われたら、喜んでするよ。ダスティンは決断力にあふれて、それでいて思慮深い。まさに俺たちの理想のリーダーなんだ!

ほかにどんなクルーがいるかって? 搭乗運用技術者(ミッションスペシャリスト)って役割は、みんなには耳慣れないかもしれないな。彼らは、宇宙船のシステムの専門家だ。この船のことなら何でも分かる。それからロボットアームを操作したり、船外活動を行ったりするのも主な仕事だね。エルメス号では、サリー・デイビッドがこの役割を担ってる。サリーと俺は、チェスの良きライバルなんだ! 地球に戻ったら、サリーが俺にホットドッグを37回おごることになってる。覚えててくれよ? 俺からは52枚のピザだ!

もう一人重要なのが、搭乗科学技術者(サイエンススペシャリスト)のライアン・ホッジズ。彼は、この船で行う実験について並外れた知識を持ってる。言ってみれば、科学者がそのまま宇宙へ来てるようなもんだね。ライアンは、科学者でもありながらスピリチュアリストでもある稀有な人材だ。物質世界も精神世界もフェアに信じていて、常に疑問と探究の中に身を置く勇気の持ち主。彼の立場に色々と意見のある人もいるかもしれないけど、俺は彼を尊敬してるよ。

最後に、航空宇宙医師(フライトサージャン)のパトリック・ニール。そうそう、彼と俺は名前が一緒なんだ、ちょっとややこしいでしょ。だから俺はヒューゴって呼ばれてるわけ。ニールの役割は、宇宙飛行の健康を管理することだ。たとえば、俺たちの運動スケジュール。宇宙では重力がないから、だんだん骨がもろくなる。それを防ぐために、ランニングマシンなんかで運動するんだけど、ニールが課すノルマはなんと120分だ! もうちょっと軽くできないのかな? ダメかい?

とまあ、エルメス号は5人の宇宙飛行士を乗せて航行中だ。個性はバラバラだけど、みんなチームワークを重んじる良き仲間だよ。俺たちの目的はずばり、異星の知的生命体とコンタクトを取ること! 来たるべきその日に備えて、全員でベストを尽くしてるよ。今後も俺たち5人の生活をお届けするから、お楽しみに。チャンネルはそのまま!